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広島地方裁判所 平成7年(ワ)1257号 判決

主文

一  甲事件原告の請求を棄却する。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、金六四万七〇〇〇円及びこれに対する平成七年三月六日から支払い済みまで年三割の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、甲事件原告及び乙事件被告の負担とする。

四  この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  甲事件

1  甲事件原告(以下「原告」という。)と甲事件被告(乙事件原告、以下「被告会社」という。)との間の平成三年一〇月一六日付け金銭消費貸借契約に基づく原告の被告会社に対する債務が存在しないことを確認する。

2  被告会社は、原告に対し、八〇万二八二九円を支払え。

二  乙事件

主文第二項と同旨(乙事件被告を以下「被告道木」といい、原告及び被告道木を「原告ら」という。)

第二  事案の概要

本件は、貸金業者から金銭を借り入れた主債務者が当該業者に支払った超過利息等につき、貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)四三条が適用されるか否かをめぐって争われた事案であり、甲事件は、主債務者の原告が貸金業者の被告会社に対し、同条の適用がないとして債務不存在確認及び過払い分の支払いを請求する事件であり、乙事件は、被告会社が連帯保証人の被告道木に対して、同条の適用があるとして貸金残額を請求する事件である。

一  事実関係(末尾に証拠の記載のない事実は、当事者間に争いがない事実である。)

1  被告会社は、平成三年一〇月一六日当時、登録番号広島県知事(1)第〇一四七五号の登録を受けて貸金業を営んでいた(当時、広島市中区大手町一丁目一番二〇号所在)。

2  被告会社は、平成三年一〇月一六日、原告に対し、次の約定で二〇〇万円を貸し渡した。

(一) 弁済期及び弁済方法

平成三年一一月から平成八年一〇月まで毎月五日限り元金三万三〇〇〇円を経過利息とともに被告方に持参又は送金して支払う。但し、最終支払い元金は五万三〇〇〇円とする。

(二) 利息 年率39.80パーセント

(三) 期限後の損害金

39.80パーセント(一年間を三六五日の日割り計算とする。)

(四) 特約

右元利金の支払いを怠ったときは、通知催告なくして期限の利益を失い、残債務全額及び残元本に対する遅延損害金を支払う(乙三)。

3  被告道木は、平成三年一〇月一六日、被告会社に対し、原告の右債務について連帯保証した。

4  被告会社が、右各契約締結の際、原告らに対し、乙第四号証、第五号証の一、二の契約書面(以下「本件契約書面」という。)を交付した(乙四、五の一、二、証人笠原)。

5  原告は、別紙計算書(1)の弁済日及び返済額(別紙元利金計算書(2)の入金日及び入金額)のとおり弁済した(以下「本件支払い」という。)。

6  原告は、平成四年一月五日、支払うべき元利金の支払いを怠った(乙五〇の四)。

二  争点

1  法四三条の適用があるか。

(一) 本件契約書面中の日曜日及び休日に当たる各返済期日について、法一七条一項八号、同法施行規則一三条の要求する「各回の返済期日及び返済金額」の記載があったといえるか。

(二) 銀行振込による支払いが「利息又は損害金と指定して」支払ったといえるか。

(三) 被告会社は、乙第九ないし四九号証の領収書兼利用明細書(以下「本件受取証書」という。)を原告に交付したか。自宅所在地に送付すべきか。内容証明郵便もしくは配達証明郵便により証明すべきか。

(四) 本件受取証書のうち乙第九号証など九通について、「受領年月日」の記載がなされているといえるか。

2  前記2(四)の期限の利益喪失の特約は、無効か。

3  充当関係について

(原告らの主張)

原告は、本件支払いの返済額を利息制限法に引き直して計算すると、別紙計算書(1)のとおり合計八〇万二八二九円の過払いとなる。

(被告会社の主張)

法四三条の適用により、充当関係は別紙元利金計算書(2)のとおりとなるので、元本残額は六四万七〇〇〇円となる。

第三  争点に対する判断

一  法四三条の適用の有無について判断する。

1  争点1の(一)について

原告らは、本件契約書面の乙第五号証の一、二(償還表)の記載内容のうち、第三回の平成四年一月五日、第六回の同年四月五日、第七回の同年五月五日、第九回の同年七月五日はいずれも日曜日ないし祝日であるところ、返済期日が銀行振込も持参払いも不可能な休日に該当する場合の支払い及び返済額が明確でなく、法一七条一項八号、規則一三条に定める「各回の返済期日及び返済金額」の記載とはいえない旨主張する。

しかしながら、法一七条一項八号、同法施行規則一三条は、「各回の返済期日及び返済金額」そのものを明確に記載するよう求めているのであって、記載された返済期日が休日に該当する場合の取扱いについての明確な記載を要求するものではないと解すべきである。

そして、原告ら主張の前記各返済期日が休日に該当することは、原告らにとって暦などにより容易に知り得る事実であり、右各返済期日の前日が少なくとも持参払いが可能な日であることは同様にあらかじめ容易に知り得る事実である。そうすると、原告らは、遅くとも右各返済期日の前日には支払うべきであろうこと及び本件契約書面の他の記載内容と合わせてその日までの返済金額は計算することができるであろうから、原告らが支払時期及びその返済金額の判断に支障を来すことはないと考えられ、乙第五号証の一、二の記載内容は、同法施行規則一三条にいう「各回の返済期日及び返済金額」の記載として明確性を欠くところはないというべきである。なお、証拠(証人笠原)によれば、第三回の返済期日の前日である平成四年一月四日被告会社は開店していたことが認められる。

原告らは、返済方法は銀行振込が前提であり、持参払いは片道一時間近くを要するため現実的でない旨主張するが、証拠(乙四)によれば、返済方法は持参払い又は郵送、口座振込であったことが認められ、銀行振込が前提ないし原則的であったとは認められず、片道一時間近くを要する持参払いが現実的でないということもできない。

以上のとおりであるから、原告らの右主張は採用できない。そして、証拠(乙四、五の一、二)によれば、被告会社が原告らに交付した本件契約書面には法一七条一項、同法施行規則一三条に定める事項が全て記載されていることが認められる。

2  争点1の(二)について

原告らは、「利息として」とは、文字通り利息に充当する明確な意思表示が必要であり、銀行振込では、利息に充当するとの意思表示をすることは不可能であって、法四三条の要件を具備しない旨主張する。

しかしながら、法四三条一項にいう「債務者が利息として任意に支払った」及び同条三項にいう「債務者が賠償として任意に支払った」とは、債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払いに充当されることを認識した上、自己の自由な意思によって支払ったことをいうものと解するのが相当である(最高裁平成二年一月二二日第二小法廷判決民集四四巻一号三三二頁参照)。そして、原告が前記第二の一の2の約定等が記載された貸付契約説明書(乙第四号)及び償還表(乙第五号証の一、二)の交付を受けたことは前記のとおりであり、証拠(乙三、四、五の一、二、九ないし四九、証人笠原、同佐々木)によれば、右償還表には毎月の返済金額とその内訳の元金額及び利息額が記載されており、原告は、右償還表の受領の際、被告会社の貸付担当者から、利息と一緒に毎月返済してもらう金額である旨の説明を受けたことが認められる。右認定事実によれば、原告は、本件支払いの際、利息又は損害金の支払いに充当されることを認識した上、自己の自由な意思によって支払ったことが認められる。したがって、原告らの右主張は採用できない。

3  争点1の(三)について

原告らは、受取証書が原告の自宅所在地に送付されていないことをもって、受取証書の交付がなかった旨主張する。

しかしながら、受取証書の送付先を債務者の自宅に限定すべき合理的理由はないというべきである。そして、証拠(甲六、乙三、五〇の一ないし四、五一ないし八四の各一、二、八五の一ないし三、証人笠原、同佐々木、原告本人)によれば、原告は、本件契約締結の際、金銭消費貸借契約書の債務者の住所欄に広島市安佐南区相田五丁目三七―六と自ら記入したこと、運転免許証の住所地と異なっていたので、被告会社の貸付担当者は、ゼンリンの住宅地図を見て「廣瀬建設(有)(廣瀬憲夫)」と記載されていることを確認したこと、被告会社は、原告に対し、受取証書の送付先を右住所地として普通郵便で発送してきたが、右郵便が返送されてきた事実はないこと、右住所地は、原告の父群郎が経営する廣瀬建設有限会社の住所で、原告は右会社に勤務していたことが認められ、右認定事実のもとでは、受取証書の送付先を原告の勤務先の住所地としてきたことは是認できるというべきである。

次に、証拠(乙五〇の一ないし四、五一ないし八四の各一、二、八五の一ないし三、証人笠原)の証言によれば、被告会社では、受取証書を発送する度に、その事実を領収書郵送控えに記録しており、右控えには、発送年月日、領収書番号、契約番号、氏名、送り先住所、入金年月日及び入金額の欄などがあって、発送の都度記入されていること、その発送業務は予め担当者が決められており、右控えの末尾に発送責任者が押印して、毎月末日ころに公証人役場で右控えにつき確定日付を取得していることが認められる。

そして、証拠(乙五〇の一ないし四、五一ないし八四の各一、二、八五の一ないし三(以上は領収書郵送控え)及び乙九ないし四九)によれば、被告会社は、原告からの入金の都度直ちに本件受取証書を原告の勤務先の住所地に発送してきたことが認められ、証拠(証人佐々木、原告本人)によれば、原告は前記会社に勤務しており、毎日出勤していたことが認められる。右認定事実によれば、被告会社は、本件支払いの都度、直ちに本件受取証書を原告に送付したことを認めることができる。

原告らは、受取証書の送付の事実は内容証明郵便もしくは配達証明郵便で直接証明すべきであって、被告会社提出の領収書郵送控えでは証明できない旨主張するが、右事実の証明の方法は内容証明郵便もしくは配達証明郵便に限られるわけでないから、右主張は採用できない。

4  争点1の(四)について

原告らは、本件受取証書のうちの一部は、法一八条一項五号所定の受領年月日でなく、領収書作成日が記載されているにすぎない旨主張する。

証拠(乙九ないし一一、一二の一、二、一四、二四、二七、二九)及び弁論の全趣旨によれば、平成三年一一月五日(乙九)、同年一二月五日(乙一〇)、平成四年一月八日(乙一一)、同年三月二日(乙一二の一、二)、同年四月三日(乙一四)、平成五年二月一〇日(乙二四)、同年五月二五日(乙二七)、同年七月五日(乙二九)にそれぞれ振込があったこと、銀行の窓口業務の終了時刻間近に振り込まれた場合、被告会社の通帳への記入が翌日になされることがあるが、このような場合、被告会社では、振込金が、被告会社の通帳に記入され、被告会社の現実的支配下に入った日を「受領年月日」として受取証書に記載する扱いにしていること、乙第九ないし一一号証、第一二号証の一、二、第二七号証、第二九号証の受取証書は、振込日の翌日である受領日を記載したものであり、乙第一四号証の受取証書は、振込日である平成四年四月三日が金曜日であるため、被告会社が現実に受領した同月六日を記載し、乙第二四号証の受取証書は、振込日の翌日である平成五年二月一一日が休日であるため、被告会社が現実に振込金を受領した同月一二日を記載したこと、元利金計算に当たっては、振込日を入金日として処理が行われていることが認められる。

ところで、法一八条は、債務者が貸付けにかかる契約の内容又はこれに基づく支払いの充当関係が不明確であることなどによって不利益を被ることがないように貸金業者に契約書面及び受取証書の交付を義務づけたものと解される。したがって、債務者としては、正確な充当関係はあらかじめ交付を受けている契約書面の記載を合わせて把握できれば足りるのであるから、受取証書の記載事項が事実と寸分違わず一致していることまでは必要ないものと解すべきである。本件の場合、受取証書の右肩欄に記載の年月日は、現実に被告会社名義通帳へ記帳され、被告会社の現実的支配下に入った日を受領年月日として記載しているものであり、充当計算における入金日と異なっている日が前記認定のとおり存在するが、右程度の食い違いは、原告が充当計算をする上で支障を来すものではなく、支払いの充当関係が不明確になることはないというべきである。したがって、原告らの右主張は採用できない。

二  争点2について

原告らは、前記認定の期限の利益喪失の特約が無効であると主張するが、右特約は契約自由の原則上有効であることは論をまたないところであって、右主張は採用できない。

三  争点3について

前記一に説示したとおり本件支払いにつき法四三条の適用があるというべきであるから、原告の弁済による充当関係は、別紙計算書(2)のとおりとなる。

四  よって、甲事件について、原告の被告会社に対する請求は理由がないから棄却し、乙事件について、被告会社の被告道木に対する請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田克俊)

別紙 〈省略〉

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